半身への愛惜〜出会いと森








「母上、このチーグルを森に返したいのですが・・・」
「・・・チーグルさんを?」


母上は、少し驚いたような感じで俺を凝視した。父上もティアもそれにメイド達も俺を凝視している・・・はっきり言って、うぜぇ。
しかしそれを気にしている暇はない・・・俺はそれを無視しつつ、さっき思いついた事を言った


「はい。このチーグルはおそらく野生の魔物。いくら人なつっこいとはいえ、野生へ返した方がこのチーグルにとっても俺たちにとっても良いことでは無いでしょうか?」


さらに驚きの視線を感じながらも意見を言った俺は少しすっきりした気分になった。
なぜすっきりしたのかというと、俺の真実を知り周囲にも知られた後どうしても言葉が詰まっていて中々話しが進まなくなる事が多くなった。






ーレプリカだって・・・気持ち悪いわよねぇ



ーどうして此処にいるのかしら?レプリカなんかがいていい場所じゃないのにね



ー早く死ねばいいのに



ー本当よね!レプリカなんてこの世から消えてしまえばいいのに!



ーレプリカってこの世で一番いらないモノよね






原因はおそらく毎日聞こえた俺の存在否定の言葉・・・ガイは心配してくれたけど、メイド達や白光騎士団達は俺を汚いモノを見るような眼で見ていた。
だけど、それだけじゃ無い。






ークルシイ・・・クルシイ・・・



ーナゼオマエガイキテイルゥウウウ!?



ータスケテタスケテタスケテタスケテ



ーオマエナンテウマレナケレバヨカッタンダ






アクゼリュスの夢。
ヒトと戦うたびに・・・ヒトを殺すたびに夢は見るようになった。
助けを求める声と俺の存在を疑問づける声・・・見るたびに許しを請いて、そのたびに闇に堕とされた。






ーごめんなさい・・・ごめんなさい・・・






毎晩のように言った「ごめんなさい」はもぅ、口癖のようなものになりかけていてガイやティアそれにアッシュがそれをいちいち言うなと・・・止めろと言われた。


「ーク?・・・ルーク、聞いているの?」
「・・・何が??」


過去の事を思い出していたら、いつの間にか話しが進んだらしい・・・母上や父上が応接室からいなくなっていた。ついでに言うとティアやメイド達が何かを張り切っていて、怖い。


「何がじゃないでしょう!さっさと着替えに行くわよ!!」
「なんで着替えに行くんだ?」
「あなた、そのままの髪でマルクトにあるチーグルの森に行くつもりなの?」
「・・・あ。」


ティアは俺の赤い髪と緑の瞳を指摘した。赤い髪と緑色の瞳はキムラスカ王族の証・・・
そんなのをつけて歩いてれば、いくら戦争をする事を望んでいないマルクトといっても密かに俺を捕まえて色々と尋問とかするに違いないと思う・・・


「分かった?じゃあ、着替えに行くわよ」
「ちょ、ちょっと待てよ!俺、男だぞ!!」
「今は女性でしょう?それにルークあなた、ブラの付け方とか化粧のしかたが分かるの?」


ティアはそういうと俺の返事を待たずに近くの部屋に俺を連れ込んだ。
室内には、メイド達が片手に化粧を持ち反対の手には・・・歩きにくそうなドレスから服を着るとは言いにくいものまで様々だった。



「みんな準備はいい?」
「大丈夫よ!」
「いつでも平気よ!」


「あ、あははは・・・」



色々と意気込んでいるメイド達やティアを前に、俺は笑う事しか出来なかった。
















「ねぇ、ルーク」
「なんだ?」
「・・・本当に良かったの?あれから直ぐに出発して」


俺は着替えされたら直ぐにマルクトに向かうため出発した。
そうしないとアクゼリュスの出発までずっと軟禁されると思うし、アクゼリュスに行く前にどうしてもみんなと会っておきたいから・・・


「いいんだ。ずっと屋敷にいたらまた、屋敷に軟禁される・・・そんなのは絶対に嫌だから」
「ルーク・・・」
「さ、行こうぜ!チーグルの森はあと少しなんだろ!」


ティアは俺を見て一瞬驚いたみたいだけど、直ぐにいつものティアの表情に戻った。


「それにしてもルーク・・・あんなに着替えさせられたのに結局いつもと変わらない格好になったわね」


そんな会話をして数十分後、ティアは突然今の俺の服装を指摘してきた。


「そうか?すっごく足がすーすーして気色悪いんだけど・・・」
「じきに馴れると思うわ。今まであのズボンを履いていたのでしょう?直ぐに馴れるのがおかしいもの」


今の俺の格好はこうだ
上着は変わらず、変わりにズボンは脱がされて短めのスカート(下はスパッツを履かせられた)を履いている・・・
いつもの靴も少し小さめの物に変えられた。キムラスカ王家の証である赤い髪は後ろで軽く結われて(世間でおばさん結びっていうやつらしい・・・)焦げ茶色のカツラを着けさせられた。


「そうかぁ?馴れても全然うれしくねぇんだけど」
「まぁ、元々あなたは男性だったのだものね馴れるのはあまりうれしくないのはあたりまえだけど・・・」


そんな会話をしつつ俺達はチーグルの森を目指した。
途中で昼を食べたり、休憩をしたり、魔物と戦ったりして・・・
そしてようやくチーグルの森が見えてきた。


「あれがチーグルの森か?」
「みゅう、みゅう!」
「そうみたいね、早く生きましょう」


俺はティアに怪しまれないように、チーグルに聞いた。チーグルはその通りだと言わんばかりに鳴いてティアや俺を安心させた。
本当にこいつはあいつ・・・ミュウにとても似てるな。案外本人だったりしてな





「おや〜・・・民間人がこんなところになんの用ですか?」